コロナが契機…自転車による都市開発が海外で加速化

イタリア随一の都市・ミラノが2020年4月21日、市内の道路35kmを再編する計画「ストラーデアペルト」を発表した。時速30kmの速度制限を設け、自動車用の車線を縮小してその分を自転車用の走行路や歩道空間の拡幅に充てるという計画だ。

ミラノのブエノスアイレス通りは自転車通行帯が拡幅される計画に

ミラノの都市計画、ストラーデアペルト

ミラノは新型コロナウイルスにより、イタリア国内で最も大きな被害を受けた都市のひとつ。15km圏内に140万人が居住する密集都市で、住民の55%が通勤に公共交通を利用している。全国的な都市封鎖で自動車の交通量も30~75%減少しているが、移動制限が緩和されると混雑した公共交通を避けて自動車を利用しようとする人の増加が懸念され、その抑制がねらいとされている。

平均通勤距離は4km以内であることから、自動車から自転車や歩行などの通勤形態への移行は可能だと見込まれている。ニューヨーク市の交通局長を務めたこともあるジャネット・サディク・カーン氏は、「都市をいかにリセットさせられるか、そのいい戦略を提示するという意味で、ミラン市の計画は非常に重要だ。道路を新しい目線で捉え、実現させたい結果にかなうものになっているかどうかを確かめられる千載一遇のチャンスだ。すなわち、ある地点間の車での移動がなるべく早い時間で可能になっているかということばかりではなく、誰もが安全に移動してまわれるようにもなっているのかということだ」などとコメント。

パリは330億円で自転車環境整備

フランスの首都パリでも、新たな計画の下、180km分の自転車専用道路が既存の全長1000kmにおよぶ専用道路に追加整備されている。増加が見込まれる自転車利用者のために、新たに数万カ所、駐輪場も整備されるとのことだ。また自転車による観光が増え 環境に配慮した移動手段が重視される中、パリは2026年までに都市全体を自転車利用者にやさしい街にするための2億5000万ユーロ(約330億円)のインフラ計画を発表した。

フランスでは自転車フレンドリー度を格付けする制度がスタート。パリで除幕式のひもを引くアンヌ・イダルゴ市町(右から3人目)とプリュドム(左から2人目) ©A.S.O.

北欧デンマークの首都コペンハーゲンは「世界一の自転車都市」と呼ばれている。さまざまなランキングで、コペンハーゲンは「世界で最も自転車に優しい都市」のトップに選ばれている。

2022年にはコペンハーゲンが初めてツール・ド・フランスのスタート地点になる。コペンハーゲンは都市レベルで自転車インフラが整備されていて、自転車が人々の日常に根付いているため スタート地点として選ばれた。環境に優しい移動手段、そして健康面でも注目を集める自転車の利用をいち早く推進し、魅力的な都市を実現した都市がコペンハーゲンだ。

コペンハーゲンは「世界一の自転車都市」を目指し、市民へのアンケート調査を積極的に実施し、市民が自転車に乗りたくなる街づくりに取り組んできた。現在、コペンハーゲンでは自転車が通学・通勤の交通手段の約50%を占めている。自転車は最も快適で速く便利な上に、低価格であり健康や環境にもいいため需要が高まっている。

世界一の自転車都市「コペンハーゲン」

1907年にはすでに欧州トップクラスの自転車都市であったコペンハーゲンは、1960年代後半にはマイカーブームの到来により、自動車を優遇する政策にシフトした。しかし、1970年代にオイルショックが起き、石油に依存しない交通手段として自転車が再び注目を浴びるようになった。また、交通事故の増加に伴い、自転車専用道路を設置すべきだというデモが行われるようになる。そこで、コペンハーゲンは1980年代から集中的に予算を投下し、基本的な自転車インフラを整備すると、それに伴って自転車利用者も増加した。

世界のサイクルシティ、コペンハーゲン ©PIXTA

現在、デンマークでは長距離列車・電車・メトロ・バスなどへの自転車持ち込みが許可されている。長距離列車に自転車を持ち込む場合は、チェックインして自転車の追加料金を支払う。コペンハーゲン市内を走る近距離電車(S-tog)・メトロ・バスへの自転車持ち込みは無料。また、駅のホームにはエレベーターが設置されていて、簡単に自転車を持ち込むことができる。

デンマークでは長距離列車・電車・メトロ・バスなどへの自転車持ち込みが許可されている ©PIXTA

1982~2001年に基本的な自転車インフラを整備した後、コペンハーゲンは自転車を市の施策の優先事項に位置づけ 10年計画を打ち立てた。さらに、「世界一の自転車都市」の確立を目指して「自転車ストラテジー(2011~2025年)」を実行中だ。現在、コペンハーゲンの「自転車ストラテジー」は「コペンハーゲン気候変動適応計画2025」のプロジェクトの一環でもあるという。

コペンハーゲン市内の通学・通勤の交通手段(2018年) 出典:コペンハーゲン市

世界的に気候変動への関心が高まるなか、2009年に「第15回気候変動枠組条約締約国会議(COP15)」が開催され、コペンハーゲン市は「環境に優しい街づくり」という理念のもと「自転車ストラテジー」を加速させた。自動車に代わる交通手段として自転車の利用が増加すればCO2削減につながる。都市と地方を結ぶ「自転車用スーパーハイウェイ」45ルート(計746km)が完成すれば(2045年目標)、CO2排出量は年間1500トン抑えられるという。

コペンハーゲン市民が自転車を利用する理由(2018年集計) 出典:コペンハーゲン市

さらに、自転車は市民の健康維持にも役立つ。コペンハーゲン近郊で自転車利用率が10%アップすれば、病欠は10万9000日減少し、年間74億7400万円以上の経済効果が生み出されると予測されている。自転車推進プロジェクトは同時に環境保護や健康促進、経済効果にもつながるプロジェクトなのだ。 

●アプリケーションと連携できる電動アシスト自転車、 Connected Bike(コネクティッドバイク)のPR資料より

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